桜と温室が同居する春の「新宿御苑」を散策
No. 455
桜前線に一喜一憂する季節がやって来ました。
東京のお花見スポットがいくつもあるなか、新宿駅から徒歩数分という都心の真ん中に位置しながら、約58ヘクタールという広大な敷地を誇るのが「新宿御苑」。

トラベルサイト「トリップアドバイザー」の「トラベラーズチョイス ベスト・オブ・ザ・ベスト2025」を受賞した公園は春になると、ピンク色の綿帽子にあふれます。
明治時代に宮内省の管轄する庭園として整備され、戦後に一般に開放された新宿御苑には年間を通じて多くの人が訪れますが、とりわけ3月下旬から4月上旬の桜の季節は、その人気ぶりがよくわかります。

ちなみに、お花見の季節を迎えると、新宿御苑付近のカフェはどこも満席。
私は友人たちとの待ち合わせ時間を大幅にずらし、やっと席に着くことができました。
私たちは大木戸門から入りましたが、入り口は入園券を求める人たちでいっぱい。それでも園内に入ってしまえば、広大な芝生広場が迎えてくれて、都会の喧騒が遠ざかっていくような感覚を覚えます。
園内に植えられた桜は約70種、1,000本以上に及ぶそう。


そこここに大木が植えられ、ダイナミックな桜の群れに息を呑みます。
園内にはソメイヨシノをはじめ、山桜、大島桜、枝垂れ桜、そして4月下旬まで咲き続けるカンザンなど、さまざまな品種が時期をずらして開花。
よって、他の花見スポットが花を落とした時期でも、ここでは花見を行うこともできるようです。

また、起伏に富んでいる敷地なので、散策にもリズムが生まれます。
中国ビンナン建築様式の特徴を取り入れた「旧御凉亭(きゅうごりょうてい)」や天皇や皇族が新宿御苑内の温室を鑑賞する際に休憩所として用いた「旧洋館御休所(きゅうようかんごきゅうしょ)」といった貴重な建築物の内部に入ることもできますよ。
こちらは中国の歴史を感じさせる、旧御凉亭。

水辺に建ち、とても美しい佇まいです。
桜の木の下ではスマホはもちろん、一眼レフのカメラを構える人たちも多く、皆、この季節が待ち遠しかったのだな、と感じます。
子ども連れの家族や外国からの旅行者の姿も多く、老若男女が桜の下で過ごしている光景は穏やかで、「ザ・日本の春」のあり方を示しているようにも思えます。


圧巻な桜の風景を楽しんだ後にぜひ立ち寄っていただきたいのが、園内の「大温室」です。1958年に建てられた温室は、2020年にリニューアルオープン。近代的なガラス張りの建物の中に足を踏み入れると、そこには夥しい緑の世界が広がっています

温室の中は外気とは全く異なる湿度と温度に包まれています。
熱帯・亜熱帯の植物が密生し、色鮮やかな花々が一年中咲き乱れています。バナナの木が実をつけ、巨大な葉を持つ植物が通路を狭めるように広がっています。桜の淡いピンクとは対照的な、濃密でトロピカルな色彩の饗宴です。


私の心をつかんだのは、このエメラルドブルーの花びら。

珍しい色もさることながら、落ちた花びらをこうして水で受け止めているセンスに温室スタッフの丁寧な姿勢が伝わってきます。
温室の面白さは植物を観察するだけでなく、生態系の多様性を肌で感じられる点にもあります。


広大な敷地に広がる桜を体験した後、温室の中で熱帯の植物と向き合うと、地球の広さと植物の生命力が改めて感じられます。
桜と温室…。
一方は限られた季節に出会える移ろいやすく、儚い美しさの象徴。
もう一方は、常緑の濃さと生命の力強さが湿り気とともに感じられます。

新宿御苑では、その対比がひとつの庭園の中に同居しています。
お花見の季節に新宿御苑を訪れるなら、ぜひ温室にも立ち寄ってください。
桜を見て胸がいっぱいになった後、温室の扉を開けて深々としたグリーンのエネルギーに包まれる時間は不思議なほど心を落ち着かせてくれるはず。
都会の庭園が持つ豊かさを感じさせる新宿御苑。
四季折々に変わる景色に出会うため、きっとまた訪れることでしょう。

<ご案内>
新宿御苑
東京都新宿区内藤町11番地
03-3341-1461
https://fng.or.jp/shinjuku/