神々が集う季節に。日御碕神社から出雲大社へ
No. 446
全国の八百万の神々が出雲に集まる「神在月(かみありづき)」と呼ばれる季節を控えた10月中旬。
「日御碕(ひのみさき)神社に参拝したい!」という友人からのお誘いで、広島から車で出雲方面へ日帰り旅行をすることになりました。
瀬戸内海沿岸から中国山地を抜けて日本海側へ。
約3時間半のドライブを経て、鮮やかな朱塗りの社殿に目を奪われる日御碕神社に到着しました。
日本海を望む岬に立つ鳥居付近には海産物を扱うお店もあります。

参拝に襟を正すような緊張感を感じさせる雰囲気はなく、のんびりとしたムードが漂う海辺の町です。
そんな穏やかな町を見守る日御碕神社は、ほれぼれするほど桃山時代の意匠を伝える朱色の建物が絵巻物のような風景をつくり出しています。とくにこちらの楼門と松林との一体感は素晴らしく「竜宮城」と例えた古の人に共感します。

下の写真は楼門を境内からとらえたもの。この朱色感!見ただけで、身体中がこの色に染まってしまいそうです。

この神社の創建は古く、現在の本殿は江戸幕府三代将軍・徳川家光の命により、当時の松江藩主・京極忠高が1634年(寛永11年)に着工し、松平直政の代に完成したものだそうです。
その頃の家光といえば、後世に残る大仕事である祖父・家康を祀る日光東照宮を完成させた直後。
彼の命は江戸から遠く離れたこの地にも!と、その影響力と伝達力に驚きました。
電話やネットのない時代、江戸とのやりとりは人から人へ、舟や馬を介して伝えられたのでしょうか。そう思うと、完成までに費やされた時間や人々の労力に敬服してしまいます。
境内の正面には下の宮「日沉宮(ひしずみのみや)」があり、そこには天照大御神が祀られています。

高台にある上の宮「神の宮」に祀られているのは、弟神の素盞嗚尊。神の宮から望む権現造りの日沉宮は、そのなだらかで壮麗な屋根をはじめ、デティールを鑑賞できるスポットでもあります。


伊勢神宮が「日の本の昼を守る」なら、日御碕神社は「日の本の夜を守る」お役目なのだそう。
社務所では「お砂守り」が授与されます。
実は友人の目的の1つが、このお守り。

お守りのなかにはご神域の砂が入っており、身につけることで、災難を祓い、良縁を導くといわれています。これから向かう稲佐の浜でも砂をいただくので「今回は砂(土)にご縁のある旅行なのかも⁉」と、旅のテーマを見つけた気分になりワクワクしました。

稲佐の浜は、日御碕神社から出雲大社に行く途中にある、日本海に面した雄大な砂浜。
神々が天から降り立つ「国譲り神話」の舞台であり、旧暦10月10日に全国の八百万の神々をお迎えする場所でもあります。目の前の小さな島は弁天島といい、岩上には豊玉姫命を祀る小さな祠があります。

浜には白い波が静かに寄せては返し、小さなビニール袋を手にした人の姿が後を絶ちません。皆、波が引いた後に残る砂を丁寧にすくい取っています。これが「お清めの砂」です。
この砂を出雲大社の境内にある素鵞社(そがのやしろ)に持っていき、そこの砂と交換することで、初めて「神の加護を受けた砂」として自宅に祀ることができるそう。
私たちもスコップを片手に黙々と砂をすくっていきました。
そして、いよいよ出雲大社へ。
表参道ではお土産屋さんや「出雲そば」の幟が風に揺れる食事処が続き、多くの人たちで賑わっています。


長く続く松並木の参道を歩くと、「出雲にやって来た!」と感慨深いものがあります。
初めて訪れたのは四半世紀以上前で、足をすくませるような迫力のある参道に畏怖の念を抱いたことを思い出します。

これほど長い参道を歩いたのは初めてのことで、家の近所にある、子どもの遊び場となるような神社とは全く異なる荘厳さに心を打たれ、それ以来、私にとって出雲大社は特別な存在となりました。
広大な境内で、まず目を引くのは巨大なしめ縄。

束ねた藁はどのくらいの量を用いるのでしょうか…。
私はずっとこちらが拝殿だと思っていたのですが、実は神楽殿であることが判明。
拝殿はこちら(下の写真)だよ、と友人に教えてもらいました。

素鵞社の前では砂を交換するために多くの参拝者が並んでいました。

ここでは私たちも稲佐の浜ですくった砂をそっと差し出しました。入れ替わりにいただいた砂は、ほんの少し湿り気を帯びていて、指先にやわらかい温もりが残りました。
参拝を終え、ようやく空腹のお腹を満たすために立ち寄ったのは「出雲ぜんざい」を提供する甘味処。
出雲は「ぜんざい発祥の地」ともいわれ、「神在(じんざい)餅」がなまって「ぜんざい」になったとも伝えられています。

湯気の立つ器の中で、小豆の甘い香りが心までやさしく包み込んでくれました。
帰る頃は夕暮れを迎える少し前。
出雲の空には、どこか神聖な余韻が漂っていました。
朱色に包まれた日御碕神社とどっしりとした出雲大社。そして人々の想いが波にのる稲佐の浜。どれも心の奥深くに静かに刻まれました。
いつか神在月にこの地を訪れよう。そう心に誓ったのでした。

<ご案内>
日御碕神社
島根県出雲市大社町日御碕455
0853-54-5261
https://hinomisaki-jinja.jp
出雲大社
島根県出雲市大社町杵築東195
0853-53-3100
https://izumooyashiro.or.jp